まるげ制作ばなし & 各作品紹介


昨日に続きアンソロジー『MARGE(まるげ)』について、今日は企画のはなし & 軽く各話の紹介をします。紹介はさらっと読めるけど12作あるからそこそこ長いです、よかったら読んでやってください。

わたしが制作で大事にしているのは手製本の醍醐味である「テーマ・装丁・中身をしっかりマッチさせること」、つまり総合的な本づくりってことなんですが、これがまこと楽しくて制作のしんどさも、数を作れない悔しさも、まあええやんでFAになりますw で、ここがしっかりするかどうかは最初の企画が肝心なんですね。

うちはいま布張り装丁が基本なので、新企画はまず布選びからです。今回の布は黒地にピンクの糸で葉っぱのような、尻尾のようなマークを規則的に織り出した着物地。絹の光がゴージャスで耽美ですが、前回アンソロが耽美テーマだったので今回はポップに寄せたかったんですね。で、→装丁で明るく楽しい印象を加味→このマークの謎解きをテーマに→ポップな本になる と考えました。そしてキーワードを「MARGE(まるげ)」にしてさらにポップにしました。「丸」に、不安げなどというときの「げ」がひっつくことで「まるっぽい形状にみえる様子、またはそう見えるもの」を指す古語です。

方向が概ね決まったのでサンプルを作って公募。今回は頒布に協力いただける方を二人優先でお誘いして残りの枠を募集しました。12人が1000字ずつ「ピンクのまるげとは何か」について書いています。さて、どんな話が寄せられたか感想をちょっとずつ。

 1 塒之@neguran0  海ほどく
塒之(ねぐらの)さんの書く文は、どこでなんのために書いてもねぐらの温かさと曖昧さがあります。こどもとおとなの境界線を浮遊している気ままなたましい。このわけのわからない本の入口にぴったりで、これがあることがとてもうれしい。

 2 座木春@86krk ベイビー・ベイビー・ユニバース
春さんに対する先行イメージが吹っ飛びましたw 可愛い、優しい、楽しい恋人たちの会話。まさにこのポップな装丁を、まんまショートストーリーに仕立ててもらったような。抜群に口当たりの良いキャンデーですよ!

 3 磯崎愛@isozakiai  らちがい・まるじなる
前々回のアンソロ「べんぜんかん」で書いた話とシリーズ的になるよう書かれた本作。今回は本の歴史についてをざっと浚う内容。表題「MARGE」からこのネタを選ぶのが読書家の磯崎さんらしいなと。本とそれを書くことへの情熱や哀感が行間から。

 4 ツカノアラシ@tukano_2013  あみるすたん羊に生えるもの
作風を良く知らなかったツカノさん、ちょっと不穏なものを書きますと宣言されたのですが。いただいてみると飄々とした文章が明るくて、不穏な内容とのマッチングが不思議な味わいの作品でした。元ネタがあり、わかる方はとくに楽しめそう。

 5 凪野基@bg_nagino 追想
凪野さんの文章は常々拝見しているので、読み終えて「ああ、凪野だっ!!」と叫びました。職人芸が光ります。あと、じっさいいろいろキラキラ光るんですよねえ、ナギノ世界。漆黒の闇が光をなお美しくする。闇は文章の密度だろうと思います。
 
 6 きよにゃ@kiyonya3 謎の宅配便
今回アンソロ執筆中に不思議な事件があって、それにインスパイアされるかたちで書かれています。SF仕立てでごくごく近未来の日常は――と一緒に想像を膨らませて読みました。そのころには宅配便の配達人も人間ではない(しかしイケメン)気がしたりして。

 7 宮田秩早@takoyakiitigo 北辺の習俗と神の去譚
あのですね、この方。宮田さんたら、執筆メンバーが決まって2日後には原稿提出されたんですよ!! は?? ってなりましたよw とにかく書きたいから書いちゃったっておっしゃって、驚くやら有難いやら。で、「所定の枠に収まらないですねえ、削ります」とおっしゃったんですが内容がとてもよかったのと削ると台無しになると思えたのでそのままいただきました。そういうわけでこの作品のみ、字数が多くなったりルビがあったり字の大きさが2種類あったりイレギュラーになっております。神話だしね! もうこれ真ん中にどーーんと置いて絵とかつけて、前後半の分け目にしたらええんちゃう?と。
内容ですけど、実はこのタイプ「来ないかなー」って待ってたんですよ。しかもこの雰囲気、すごいでしょ? 自分ではまず書けない。神様ありがとうと万歳しました^^ (そしてちゃっかりそのあとに自作を配置するわたし)

 8 うさうらら@usaurara ぴさんり
主宰特権で原稿が集まってから、そこにない要素をまとめる感じで話を作りました。「ケモ」「いわゆる百合モノ」「時代物」と、普段書かないもの。長々と書くにはちゃんと知識や慣れが要りますけど、1000字だからわりと楽しんで書けました。まるげが何か、ぴさんりが何か、お楽しみに^^

 9 嘉村詩穂@poesy_rain 患者番号08396
これも嘉村さんの通常運転、ひたすら耽美な一編です。闇や病みに惹きつけられて耽美なものを書く、その筆に対象への距離感を感じさせる嘉村さん。どれだけ美を描写してもぎりぎり溺れていない印象があります。それと詩を書く人の息遣いもわたしには美点。

10 雲形ひじき@kmkymr メディナ・ノート
「ヘンタイくさい」とひじきさんに感想をお伝えしましたw 何がって難しいんですけれど! 確実におかしい。怪しい。ひじきさん、あなたって何者? きっとみんなそう思うに違いないです。あ、内容は日記形式でのほーーんとしてます。(ますますアヤシイ) この本を「まるげに関する資料集」と設定したとき、こういうのあったらいいなと思ったものに日記形式もあったので頂いて嬉しかった作品です。

11 オカワダアキナ@Okwdznr 読み捨て
おかさんは「アンソロは主宰さんに捧げることにしてるので」とおっしゃって、二作初稿を用意して選ばせてくださったんですよ。それでなんと金の斧をポーイしましたw すごくよく書けている方を捨ててなんだかよくわからない方をくださいって言ったんです。だってこの本、なんだかよくわからない本にしたかったから! でも仕上がってみれば、やっぱり正解だったと二人とも納得しているので結果オーライなんです^^ フィティッシュな言葉のつらなりに身を任せて、北の海でけむくじゃらの獣に肌を撫でられる心地を楽しんでいただきたいです。

12 かくら こう@ohanasi_cafe Mの孵化
嘉村さんの作品と近い「ドロドロ耽美」なのですがこちらはシュール。口調の淡白さと展開の滑稽味で分類不可能ななにかになっていくので読みながら焦ってしまうw わかろうとして手に取ったものが次々粉砕されてお手上げ、マイッタ。滑稽で残酷で甘美。うちにシュヴァンクマイエル不思議の国のアリスがあるのを思い出させました。「わけのわからん話」がわたしは好きなのでこれをトリにしました。


構成についてざっくりまとめると前半がSFっぽいものやポップ&キュートなもの、7が神話、後半は語りがややダークなもの。特に最後のほうには心象が抽象化され、短いながら深みを感じる作品たちを置きました。彩り鮮やかで賑やかな皿を楽しんでいただいた後に濃く苦いエスプレッソをお出しする、みたいな手順です。皆さんのお口に合いますように。

このアンソロは今週末の文フリ東京で少部数頒布のあと、春のテキレボと名古屋コミティアで頒布予定です。いずれの会場でも見本を手に取っていただけますので、ぜひいらっしゃって手製本の手触りを味わってみてくださいね。