300字SS 『フライト』お題:雲

上記のイベントに参加します。



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『フライト』


誰?ここで何してるの?

手を貸しに来たわ

僕、呼んでないよ。ぼんやり考え事してただけだ

うん、でもその底にはっきりがあったのね。ちゃんと聞こえたわ


彼女は、目の前を塞ぐ木の板に雲を描き始めた。


これまでいろんな雲を手伝ってきたわ。洞窟や大きな教会のフレスコ画や立派な肖像画のうしろ。こういう場所もよくあるのよ


狭い木箱の中で雲描き職人はあっという間にイメージ通りの雲を描き、僕に胸を張った。飛行機やミサイルならそこそこ描けるのに、毎日見ていた雲が描けなかった僕は心からお礼を言った。「らしく」なったよ、ありがとうって。


そうして僕は雲と一緒に高く高くのぼってほんとうの雲になった。