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300字SS 『カプセル』 お題:声

短編小説

カプセル

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庭を挟んだ向こう、蔵の白壁に濃い青を湛えた朝顔が空へと競うように咲いている。
真っ白な麻絣を着た従兄の傍に立つと彼は嬉しそうに朝顔の多種多様について話した。

「蔓がいいんだ、朝顔ならこの古型が。葉の形が美しいだろ」

やわらかな髪のうねりと覗き見える耳を見ながら僕はそれに同意した。

彼が空へ旅立って13年になる。今も咲かせ続けているという叔母に種を見せられ数粒を持ち帰ったのはこの春の法事のことだ。

「種ってのはカプセルだよ」

きみが古代蓮の話を聴かせなければ僕はこんな酔狂をしなかっただろう。
これが咲いたら君の笑う声をもう一度聞けそうな気がするんだ。
「とんだロマンチストだ」って。


(了)

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『北陸アンソロジー』で掲載の「海柘榴」からのスピンオフです。同じ語り手で追想をさせながら「声」をどう組み込むか、結構悩みました。(この挿画は北陸アンソロ初売り時につけた限定ポスカです)

話としてはなんてことないんですが、あの話の空気はちゃんと写し取れたかなあと思います。


拝読、ありがとうございました。