読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

短編小説 さばれもん

今年は小説と絵をバランスよくカキカキしたいなあ

ということで、下記の企画に参加します。(思い立ったが吉日☆)

 


【第5回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

つい最近シビアなSFっぽいの書いたので、もうちょっとスウィートなものを書こうかとホームドラマ的な短編を書いてみました。スウィートとまではいかないけど少しはほんわか仕上げ柔軟剤入りになったと思うんですよ。どうでしょうかw

 

 

「さばれもん」

 

 

 


窓の光が届きはじめて卓上のチューリップがいっせいに目を覚ます。部屋の一角、長椅子の足元でうつらうつらしていた猫が、勢いよく入ってきた女を微かに睨む。


アロエさんは軽くため息を吐きながら床のくつしたを拾う。ほうっておけばいいのに。
手元のカゴに入れたら、テレビとビデオのリモコンを拾い棚に上げて鼻歌。

「いい天気とは言っていたがまだまだ地面は湿っている時間だ、焦るんじゃない」
という顔をしてみせたらこのおふとぅんは諦めたが、気を付けないとあれはわしらまで一緒に洗濯機に放り込みかねん。それだけは御免こうむる。(一度うっかりハマって死にかけた)

「きねんび」というのはいいものらしい。
「はじめての」というのもいいものらしいから、たぶん「昨日」は二人にとってすごくいいものだったのだ。
猫の日」とブッキングしたこと以外には別に文句はないよ。来年はスケジュール調整をしっかりやってくれると嬉しいがな、新米さん。


洗濯機がまわりはじめた。

 

 


アロエさんはキッチンで花の水替えをする。花色がとりどりなのは安全策のつもりだろうか、いかにも夫らしいと苦笑いしつつ段取りを考える。

 

早く干さなきゃ。晴れるっていうけどどうせまた昼過ぎには曇ってくるんだろう。
お昼早めにして、出かける準備万端で洗濯が乾くの待とう。セール品残ってますように!

パンパン!

心の内で柏手を打つと洗濯機の音が止まった。
猫の額の庭付きだが干し場は広くなく、なかなか洗えないでいたシーツを今日は洗った。

あー、イワさんのシーツ背中の当たる場所が透けちゃってる。
買い替えなかったからなー。まいったな、たかがシーツなのに高いんだもん。
でも綿100じゃなきゃヤなんだよな・・・
あ、実家の押入れに高級品とってないかなぁ今度聞いてみ

あ・・・・・・お隣さん洗濯してる・・・・・・やっぱり男モンだけみたい。
ほんと奥さんどうしたんだろ、もう半年以上見かけてないんだけど。

 

シーツの含んだ水分がほのかな芳香を放ちからだにまとわりついてくるのを胸に吸い込みながら、濡れたものが手に触れる感触が心地よく感じられるほどあたたかくなったことに気づいた。

 

 

3 


四畳半の事務机で男は仰向け気味に椅子に掛けて、手を伸ばせば届く青い空き瓶を眺める。肩の部分にはうっすら埃のグラデーションができている。


あいつが好きなものがいつのまにかこの家に溢れている。
それに気づいたとき、もうあいつはお前と一緒に居なくなってた。
越してきた最初の何か月か、俺はほんとうに幸福がもたらされるような気がしていたのに。
黒猫と言ったって日本猫じゃあな、そりゃ暗転もするよな。

猫なんか可愛がってるからって言ってしまったのはヤキモチだってわかってる。
自分の無能さにイライラして当たってしまったんだってわかってるよ。

鯖缶があるんだ。
大人買いしてあるんだ。
よかったらかえって来いよ。
ときどきでもかえって来いよ。
 
立てかけられたキャンバスの黒猫は、菜の花のような黄色を背に曖昧な表情をしている。

 
 


陽が傾き始め、霞がかった景色を二色刷りに染めてゆく。玄関マットの上で提げたエコバッグとアロエさんの足にぐるぐるのの字を描いてから二匹の猫はリビングに戻った。


おまえは幸福を運んでくるのだよって師匠から言われても、アタシどれがそれなかさっぱりわからなかったの。とりあえずネズミとか虫ではないのよ。これがそうだって得意の絵で描いてくれたらわかったのに。
最初ここにはもう白い雄猫が居るから置いてくれないかと思ったのよ。アタシ「去勢済み」でラッキーだったわ。アロエさんもわりと優しいし。
でもできればもうすこしアタシを抱くときの顔、アンタ気を付けた方がいいと思う。女のひとの気持ち、察して欲しいの。

・・・・・・男ってみんな似たようなものなのかしら。まあ、わたしは最近もうそゆうのどうでもいいカンジなんだけど!人間ってなかなかそうはいかないみたいねえ・・・・・・
 
キッチンで支度が始まる音がするといつものように考え事を放り出して黒猫は飛んでゆき、白猫がそれを追った。
 
 


イワさんの帰宅と同時に届いた荷物は、はるばるドイツからのワインだった。鯖のグリルが湯気を立てている皿を目の前に思わずアロエさんは自分グッジョブと思ったものの、さて差出人には二人とも思い当りがない。


この黒猫知ってる。白だよこれ。
あ、カード入ってる。

「今そこに黒猫がお邪魔しているでしょうか。
居たらそれはわたしの家来です。
どうしても人間のフリができなくなってしまったので
わたしは魔女の故郷に戻っておりますが
また魔術に磨きをかけることができたら
もういちど日本に帰るときが来るかもしれません。
それまでどうかお二人に家来が幸福をもたらしますように」

 



 
いつものようにレモンを手に「かける?」とアロエさんが尋ねると
イワさんは想像通りの顔で「うーーん」と言う。
いつもと同じ夜である。

青い壜からせせらぎのような音がこぼれ、ささやかで透明な水流が何度もグラスに円を描いた。

(完)