近未来的な寝床から 〜『おれのうわさ』の噂

はい、こんばんは。もしくはおはようございます。
どちらが適正か迷う時間に起きてしまいました。近未来的うなぎの寝床でコールドスリープされてぐっすりの予定がお薬飲み忘れで叶いませんでした。あほ。明日は不眠の顔でブースに居ます。来てね!

あ、京都文フリのことです。ブースは入り口ちかくの角、うー44です。今回オカワダアキナさんと隣接なのでおかさんが書いてくれた現代長屋話しを合同企画で頒布します。大サービス価格100円なり。

突発で造りが粗いのはスルーお願いしますなんですけど、お話はちゃんとおかさんのいつもの魔法がキラっとしてるのでお楽しみいただけると思います。んー、どんなって言われたらおっさんがゲロ吐くだけの話なんだよねw ああ、今回のは複数のお題を盛り込みつつオカワダ的に仕上げるのがたぶん課題だったんだと思う。まず、うちのアンソロ『ひとのうわさ』に合わせて江戸長屋の現代版という枠があってタイトルも『おれのうわさ』になっています。そして、作中で登場する要素に『ひとのうわさ』とイメージの重なるものがいくつか。


話を持ちかけたときにはただ単純にアパート暮らしの話をと言ったので、仕上がった作品がしっかり江戸長屋オマージュでもあって「ああ、おかさんだな」と感心しました。おかさんと親しくなる以前には知らなかった側面、古い文化への愛着がこういうアプローチにさせるんだなあと。

何かテーマを与えられて書くとしたとき、それをとりあえず咀嚼することと出来れば自分の個性を盛り込むことで手一杯になるものだと思う。当然おかさんだってそうなっていたんだと思う、スタート地点で。でもそこから「いや、もう一段深く」と自分に負荷をおわせて書かれたと想像され、依頼主としてはいたく嬉しかったしあらためて力量を見せつけられ悔しくもあります。
その上、暴露すると一度仕上がったものに「これこれこーいうもんをパッケージに使うんで、お話を合わせてリライトできない?」とサディスティックうささん全開しました。そしたら半日でリライト返ってきました! 凄い。頼んだ以上の改稿がされて、パッケージとぴったりハマった仕上がりになってました。オカワダさん、ありがとうございました。

さて。そんな突発的偶発的出来立てホヤホヤの小さな読み物を、ぜひ100円玉握って買いに来てください。その他にもわたしの個人誌手製本『W』を少し持って行きます。短歌とイラストでストーリー仕立てにした本。

今回売るものが沢山はないので、過去に作った手製本の見本をしっかりお見せする予定です。フリペも2種類、短歌ハッシュと往復書簡『カルトン』を配ります。

それと先日美篶堂さんの講習会で作って来た上製本仕立ての文庫本も持って来ています。手製本に興味がある方、ぜひ見にいらしてください。

あーお腹すいて来た。。。寝るの諦めてなんか食べようかな。では、会場でお会いしましょう。

今年なにやってたっけ~卯楽々堂の2019

なにってとにかく「夏に二度引っ越しをしてリフォーム!」です。
大掛かりな工事だったのでこれが一番のお仕事だった。卯楽々堂の創作的には、これまで3年経験しなかった「イベント直接参加」を立て続けに2度したのが大きなことでしょうか。制作にあまり時間が取れなかった一年だけど、今写真で振り返ってみたらまあまあ頑張ったかな~と自己満足しています。(自分にアマアマw)

記事のもくじ
1.ネプリ関連 
2.折本関連 
3.手製本(写真でズラっと)
4.おまけ(縫ったもんとかたべたもんとか)
5.来年前半の予定

振り返りはここから ↓

1.ネプリ
・毎月発行 『短歌ハッシュ』
・毎月発行 花うさぎ往復書簡ネプリ『カルトン 後半の6カ月
・年二回の同時配信企画 ペーパーウェル 主催と参加
『珈琲短歌』にイラスト提供
ほかにも短歌のネプリ企画に参加はしているけど割愛します。

2.折本
・夏開催のフェアに2つ参加

3.手製本の制作・頒布

イラストと詩の和綴じ本『画帳 斑』

アンソロ『まるげ』

コラボ花うさぎ『斑』

テキレボでの装丁交換企画本『ロールシャッハの温室』

短歌アンソロ『ぽたん』

岡本の美味しい本『CARTON』

短歌と絵のショートストーリー『W』


長屋アンソロ『ひとのうわさ』 1月の京都文フリ直参に間に合えば頒布します。予価500円


 

京都文フリのカタログはこちら
c.bunfree.net

4.おまけ

縫ったもの
まずはクッション。せっかくリフォームするんだし!って

きものの美容衿に綿のボーダーニットを縫い付けて夏に重宝しました

同じ布でにゃんとか

ほうきの柄に巻いたり

男物浴衣地でハンカチとか。これも愛用しています

ウールのひざかけ

絹の枕カバー

縫いものじゃないけど
100均のスプーンの柄をカットして丸めたり

クリスマスリースとか



そして3時のおやつ!
説明は要らないね?











ごちそうさまでした。去年この企画の振り返り記事で「来年も美味しい美味しいって言って過ごしたい」と言いましたので目的達成です、満足。

5.予定
最後に卯楽々堂のこれから半年の予定をお知らせします。今後も引き続き手製本を少しだけ作って頒布、通販はやらない方針でいくつもりです。美味しいものをたくさん食べて、楽しく創作していきたいなあ。今年は落ち着いて暮らせるので着物ももっと楽しみたい。そういう一年、お付き合いくださいますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。

1月 文フリ京都 直参予定 
3月 ブックラバーズ(Book Lovers)委託  東京
6月 静岡文学マルシェ 直参予定

以上、最後までお読みいただいてありがとうございました!


     

長屋アンソロジー『ひとのうわさ』をつくります!


先日お話ししたアンソロの参加者が決まりました! このメンバーで貧乏長屋でのくっだらないバカ話、ホラ話を展開する予定。

雨 @ganymede102
雨伽詩音 @poesy_rain
磯崎愛 @isozakiai
うさうらら @usaurara
たこやきいちご @takoyakiitigo
庭鳥 @niwatoring
端島スウ @soo_840
桜鬼 @HanaOniTiriyuku

頒布予定の京都文フリウェブカタログはこちら
c.bunfree.net
モーメントもあります。
twitter.com


参加者の桜鬼さん曰く、長屋はロマン! 貧乏裏長屋の噂話にどんな花が咲くのか、ロマンのかけらくらいはあるのか? とりあえず京都での頒布をめざして走り出しましたので皆さまご期待ください。現在わたしはお話の構想のカケラもない状態ですが、製本作業では表紙加工の途中です。今回はかなり和風の渋い装丁、函には柿渋を刷毛で塗ってクラフト感マシマシにしていますよ。和風がお好きな方、ぜひ手に取ってくださいね。

表紙の布は着物地。縮みのかかった絹、染で絵と文字が入っています。洗ってよく伸ばして裏に芯貼りして使います。

下の写真は函の紙を加工しているところ。タチアナっていうセールで安く買った紙だけど上等すぎてうちの本に合わなかったんです。で、裏を使って柿渋で汚しました。

全体の仕上がりのイメージはこんなかんじ。


アンソロは自分自身がなるべく普段と違う方向へチャレンジできるようにと考えているのですが、正直今回チャレンジしすぎでは~の感もありますw そしていつも思うけど挙手する方々みなツワモノで桃太郎が一番弱いっていう、、、ううう。それもこれも全部「たかが趣味なんだからいいじゃん」で済ませるわけですけどね、ええ。どうなることやら。応援いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。

近況報告とお知らせ その2

こんばんは。今日はお知らせを4件です。 
・文フリ東京  11月24日
・短歌ハッシュ 今月号(配信中)
・ペーパーウェル 11月30日~
・文フリ京都  来年1月19日


☆文フリ東京 11月24日 
コラボ花うさぎの相方、磯崎愛(@isozakiai) がサークル 唐草銀河 ケ51 で出展します。
間に合うようにと、往復書簡カルトンの最新号を配信しました。これは花を題材として二人で送り合う書簡形式のエッセイです。


文フリ当日はこれまでのものと併せて6回分をブースで閲覧いただける予定です。
相方の磯崎愛は久々の文フリ出展になります。今回は再録ではありますが新刊を用意しているとのことです。こちらも花を配した美しい表紙なので花好きな方はぜひお立ち寄りくださいね。


また、台風で中止になったテキレボでの新刊だった『W』を、サークル バイロン本社 ケ-44 での【テキレボ9新刊あります!】企画で頒布します。
台風で行き場を失くしてしまった新刊たちを個人委託してくださいます。宮田さん、ありがとうございます。今企画で色々な本が揃うようですし、バイロン本社さんはもともと品ぞろえ豊富なんですよ。ぜひ見てってください^^ 『w』のウェブカタログを貼っときます。
c.bunfree.net

☆短歌ハッシュ 今月号(配信中)
今月はカワイイ路線です! いま野茨を買って部屋でドライにして飾っているんですよ。それでこうなりました。万葉集からもひとつお借りしています。

道の辺の 茨の末に 這ほ豆の 絡まる君を 別かれか行かむ
(みちのべの うまらのうれに はほまめの からまるきみを はかれかいかむ) 
丈部鳥(はせつかべのとり)

「絡まるイメージで」とお願いしたらいろんな絡まるものが集まってくれました。ぜひお読みいただき、併せて秋の茨の風情をブックカバーで楽しんでいただきたいです。セブンイレブン 10575907  60円 18日まで。
参加者リスト
望月万里葉 @perhonaribon
草薙 @naaaaagi_31
蝶のあしあと @chounoashiato31
笹波ことみ @kxtxmi
諏訪灯 @_skydew
海月ただよう @tadayou_k
桜望子 @Ma2raMen
うさうらら @usaurara 以上8名

☆ネプリ企画 ペーパーウェル
台風の影響を考慮して月末に開催延期となったネプリ同時配信企画ペーパーウェル、もうすぐですね。企画の詳細はこちらでどうぞ

わたしは短歌ハッシュと往復書簡カルトンの2種類を再配信します。翼のあるいきものというテーマになったのでコウモリラン(ビカクシダ)の10月号を用意しています。気になっていて出しそびれたー! という方もどうぞ。30日からの配信予定ですのでツイッターチェックくださいませ^^
参加者リスト
西藤智 @hitonosulab
草薙 @naaaaagi_31
諏訪灯 @_skydew
山上秋恵 @akiemuroran
庭鳥 @niwatoring
沼谷香澄 @kjomikatano
絹更ミハル @to_yo_yo_n
うさうらら @usaurara  以上8名


往復書簡カルトン 第五回 うさうらら→磯崎愛 コウモリラン


☆京都文フリ  来年 1月19日
個人サークル 卯楽々堂 で直参します。基本、在庫を持たないサークルですが今回は台風でイベントが中止になったため『W』が少しあります。あとは間に合えば昨日お話した『ひとのうわさ』アンソロも出したいなあ。

カタログ公開されたらあらためてご案内しますが、詩歌ジャンル登録の卯楽々堂はオカワダアキナさんと合同配置になるので小説のところに配置予定です。ご参加の方、ご近所になったらよろしくお願いします! 

というわけでおかさんと「なにかしらペーパー的な即興的なオアソビ的なもんをやりたいねえ!!」 と言っております。二人に余力があるのかどうか乞うご期待。

以上、お知らせ=宣伝でした。最後までお読みいただきありがとうございます。
急に空気が冷たくなって風邪をひく人が多いようです。どうぞみなさんお気をつけてお過ごしくださいませ^^

近況とかお知らせとか その1


こんばんは。
1があるので2もあります。今日のその1は近況の報告、あとひとつお知らせ。

半年ほど家のリフォームでバタバタしていました。やっとこの数日荷物が片付いてパソコンが繋がり一段落です。
そんなわけで先日のテキレボには新刊を10冊納品がやっとでした。テキレボは3年ずっと参加を続けたので出展はしたかったんです。結局イベントは台風で開催できなかったけれど^^

それで手元に新刊が残ったままになっております。ごく少量の手製本をなるべくイベントで売っていきたいので、通販はしない方針です。ごめんなさい。で、これは3冊を東京文フリに個人委託、残りを京都文フリの直参で頒布します。買っていただかなくても手製本の見本を手に取ってみていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

あと、お知らせです。

制作予定って言っていた『ひとのうわさ』アンソロの参加募集を16日の夜にします。告知ツイートへリプで先着順で受付します。申し込みは相互フォローの方でお願いします。

おおまかな要項

・原稿締め切り 12月16日 厳守
・字数1000程度まで
・時代は江戸(中~後期かと思わせて明確な特定はしない)
・場所は江戸の下町の長屋
・「誰かが長屋の住人の噂をする」シーンが含まれる。噂の対象は大家さん以外で 
・ジャンル不問、シリアスではないもの。ホラ話バカ話歓迎
・稿料なし、一冊献本あり

以上です。詳細は参加者決定後にまた詰めようと思います。ご質問があればツイッターのDMでお尋ねくださいね。ではよろしくお願いいたします!

静岡文学マルシェに参加します(委託ー22)

ちょっとおしゃれで美味しい即売会という認識が周囲で定着してる通称「静マル」。今週末に開催です。

shizumaru.info

卯楽々堂はずっと委託参加をしてて、今回も2アイテム委託予定です。まずは短歌アンソロ『ぽたん』。

1 短歌アンソロ『ぽたん』 500円 

・表紙は絹紬の着物地張り
・1ページに3首ずつ短歌 × 21人分
・2色刷りふう、カラーイラストが各見開きごとに
・短歌の共通イメージは「わっか」、雨音が聴こえてきそうな一冊

参加者(掲載順)
諏訪灯 
望月万里葉 
和田晴美 
なな 
hs 
泉由良 
エノモトユミ  
幸香 
近藤竹 
稲泉真紀 
西藤智
愁愁
嘉村詩穂
庭鳥 
芍薬 
山上秋恵
夜凪柊
うさうらら 
染よだか 
はね  
海月ただよう 
以上21名の合計63首掲載です

ウェブカタログはこちら ↓
plag.me


さて、「とりあえず2アイテム!」 と申し込んであったものの忙しくて実は数日前まで2つ目には手付かずでした>< 試案の末「おしゃれで美味しい新刊をちょっとだけ破格値で提供」することに。いつもは試作に改善をして最終形に持って行くんですが今回は試作のまま。納得いかない部分があるけど破格値にしますので勘弁してくださいね。あと、2冊しか納品できなかったのです、すみません。

2 『絵本』 (副題 カルトン ~神戸岡本) 200円

・麻100パ―セントの水玉生地で表紙貼りした函入り
・地元である神戸岡本の美味しいものを絵で紹介する内容
・切り抜きイラストをカードにあてはめる型はめ遊び要素
ウェブカタログはこちら ↓
plag.me

カルトン仕様、ボタンと紐、カードセット等やってみたかったことをやれて楽しかったです。
昨日見本と一緒に発送しましたので、現地に行かれる方はぜひ見本置き場で手で触れる楽しさを味わってみてください。



あと、静マルには桜鬼さんのサークル 波の寄る辺 が参加されます。表紙のイラストを担当しました『天使の番』も頒布がありますのでこちらもぜひ! 派手さは全くなく抑えに抑えた淡々とした語りなのですが、そのなかに詩情や余韻がたっぷりとある本です。表紙を担当させていただけて光栄です。

以上、静マルのお話でした。さて、この夏はプライベートで忙しそうなんでこれからしばらく創作はゆっくりペースになります。次のイベントは秋のテキレボ委託ですがそれも形ばかりの参加になりそう。並行して短歌ハッシュや花うさぎのネプリ『カルトン』を発行しながら来年の本の準備をしていきます。そんななのでしばらくはツイッターでいつも以上に美味しい美味しいばっかり言っていると思いますが、今後ともよろしくお願いいたします。

『MARGE(まるげ)』がコミティア【D02 灰青】にいきます! (冒頭試し読みあり)

文フリとテキレボでは持ち込み分完売したアンソロジー『MARGE(まるげ)』、最後の在庫数冊をコミティアで委託頒布します。

5月26日(日)
関西コミティア 於:インテックス大阪 
ブース 凪野基様 【D02 灰青】

預かっていただく凪野さん、このアンソロでもそうですが密度の高い文章できっちりエンタメする書き手です。幅広く色々書かれますので個人誌のほうもぜひ手に取ってみてくださいね。


コミティアって楽しそうで一度覗きに行ってみたいな、どうせなら委託してみたいな! と、企画の当初から凪野さんに委託をお願いしていたのです。そんなわけで日曜日はわたしもこっそり遊びに行く予定^^ 
さて、あらためてこの『まるげ』を紹介するとですね。「ピンクのまるげとは何か」を合言葉に12人が掌編を書いて手製本にまとめたものです。まるげとは「何かが丸まった様子」を指す古い言葉。手製本の表紙に使われた絹布の模様と、不思議可愛いことば「まるげ」からさまざまな空想がひろがりました。ぜひ手に取ってピンクのまるげを目撃してください!

では冒頭部分の紹介です。(掲載順)


1.海ほどく   塒之

 おいしそうなものの包み紙を外したら、おいしそうなものが入っているのだけれど、調理してお召し上がりくださいって。えっこんなキラキラした包み紙、ピンクに光ってお菓子みたいなのに、ちょうりして? しないとめしあがれないと? とじっくり見れば見るほど包み紙と同じピンクが黒い暗い海の中でざんぶと波打っており、ああ、こんな丸くて暗くて掌に乗る海があったのねえ、と感心するけれども、海。海の幸じゃなくて海。こんな甘い香りをさせておいて海!


2.ベイビー・ベイビー・ユニバース   座木春

 僕の想い人は地球の生まれで、地に足が着いた人である。彼の横顔を見ていると、僕はつくづく思うのだ。「重力って偉大だ」と。僕は土星出身で、そのためか落ち着きに欠けている。らしい。僕も自分でそう思う。だから到底叶わぬ恋でも、胸に秘めたまま楽しめるのかもしれない。
「あまり散らかすんじゃないぞ」
 僕が「マルゲ」を開けた途端、ハヤブサの声が飛んできた。途端、ミクロ・キャンディの七色の欠片が流星雨みたいに飛び出してゆく。僕は軽く片目をつぶり、大人しく「ゴメンね」と謝った。ハヤブサは眉間に皺を寄せたが、それ以上は怒らない。真面目である以上に、彼は優しい。


3.らちがい・まるじなる   磯崎愛

 かつて文字は隙間なく連なっていた。ひとびとはそれを読み上げながら書き写した。でなければ意味を追うことがむずかしかったのだ。
 そなたはきっと「書物」とやらに興味があるのだろうな。しかも余がこうして見えるとなれば、銀河の周縁に住まうものに違いない。なにしろ中央にいるものたちはせっかちなのだ。彼らは規矩にこだわり埒外のものを好まない。つまり、余のようなものどもを生かし続けるには、その言葉に耳を傾けてくれる来館者とやらが必要なのだ。いましばらく付き合ってくれ。


4.あみるすたん羊に生えるもの  ツカノアラシ

 ピンクのまるげを探しに行こう、一張羅の服を着てピンクのまるげを曲がりくねったような町へ探しに行こう。さて、ピンクのまるげとは、如何。
 その日、私は知人の手紙でピンクのまるげを探しに、曲がりくねったような町へ出かけたのだった。
 暫く前に行方不明になった知人からの封書の中には、店名と場所が印刷された名刺サイズのカードと『君が探していたピンクのまるげを見つけたので、行ってみるといい』と書かれた便箋が入っていて。
 さて、ピンクのまるげとは、如何。


5.追想  凪野基

 解析依頼が来た。ずいぶん古い型の宇宙船のメインシステムで、適合するケーブルを探すだけでひと仕事だった。
 データを変換している間に、添付のメモに目を通す。「軌道を外れて漂流していたため通信を試みるも返答はなく、当局にて拿捕。外装大破、乗員は全員死亡」目新しいものではなかった。
 サルベージしたデータから、このシステムがおよそ一七〇年前のものであることを知る。船籍ははるか遠くの星系を示していた。


6.謎の宅配便  きよにゃ

「山野さん、お届け物です」
「ふぁい……」
 宅配便のチャイムで、昼寝を起こされた。寝床からのそのそと這い上がり、やけに軽い段ボールを受け取って欠伸を噛み殺す。ここ数か月残業続きで、休みの初日は丸一日眠らないと体が持たないのだ。
(なんか通販、頼んでたっけ……)


7.北辺の習俗と神の去譚   宮田秩早

 北辺に独(ひと)り神ありと云(い)う。
 神名(な)、人代にくだりてのちは詳(つまび)らかならず。
 その地、三方を海とし、森多けれど実り薄く、夏、短く、冬、海は氷に、森は雪にて閉ざされり。
 人、覡(みこ)*1をして神と交わり、神、夏(か)を与(あた)う。
 夏とは獣なり。*2
 その血肉は滋養となり、毛皮は寒さを退(しりぞ)け、骨は海と森の生き物を呼び、人を養う。


8.ぴさんり  うさうらら

 女は天井の一角をちらと見やって壁際の梯子を取り、その先をひっかけて足場を確認した。着物をからげ上がってゆく女の腿が、少女の顔の間近で擦れうごく。屋根裏は暗くて見えないが二方の小窓の位置からみてそれなりに広いようだ。積まれた木箱から目当ての箱を探す女に「勝手にいいのですか」と少女が云うと、箱を開けようとした女の手が止まる。


9.患者番号08396   嘉村詩穂

 十九歳の彼の名をもう誰も覚えていない。カルテに記された患者番号の他に彼を呼ぶ名はなく、08396と声をかければ、弱々しい声で「はい」と返すのだった。
 原因不明の病に徐々に冒されて、十余年にわたる入院生活と多量の投薬によって足は萎え、もはや満足に歩くこともままならない。豪商の家に生まれたとあって、はじめこそ着飾った親族たちが仰々しい手土産とともに彼を見舞ったものだが、その足も絶えて久しい。
 外聞をはばかり、座敷牢の代わりにと、この白亜の病院に彼を押しこめたのだろうとおのずと知れた。
 花を手に友が見舞いに来る様子もなく、隣の病床に眠る顔ぶれが入れ替わっても、彼はひとり同じ寝台に横たわたっている。


10.メディナ・ノート  雲形ひじき

 某日、アサギマルゲが売り切れだった。いつでも買えると思っていたからストックは0だ。入荷までのしのぎ方を思案していると「正規の物じゃないが、ピンクならあるゲ」左目の大きな店主がから出してきたのはピンクのまるげだった。
 ピンクに切り替えてもリタの食欲に変化はない。三日に一度、十匹を丸飲み。
 某日、熊本氏と帰る。読んでいる本のことで意見を交わした。概ね同意で愉快。駅で別れてから、よりうまい返しを思いついて反省。氏が飼っている猫はまるまるとした長毛で、腹を撫でろと自ら要求するらしい。リタは鱗の変温動物であり、互いの存在に慣れはするが懐くわけじゃない。朝夕霧吹きをしながら話しかけていると、仏壇の前に座っている心もちになる。


11.読み捨て   オカワダアキナ

 表向きは船宿だ。ぼろい相部屋だが似たような客同士で気兼ねない。シーツは古本屋のにおいがした。あんたの部屋といっしょだ。
「まるげをやりにきたんだろ」
 年かさの男がおれに笑いかけた。満月の晩、ロッカーの鍵を足首に巻くのはまるげ狙いのしるしだ。
「あれはたまらないよな……」
 おれは仕事の前は二回シコるが、まるげだから三発だ。同室の男どもとやさしく抜きあった。軒先の文庫は一冊五十円、あんたを忘れる旅に出た。


12.Mの孵化   かくらこう

 部屋は桃色の粘液菌糸で覆われている。元はベッドだった長方形の苗床にMは脚を抱え横たわっている。その格好は胎児に、蛹に、そして卵に似ている。Mの目蓋も口も鼻も体躯も粘液に包まれ、一見なめらかな石膏だ。頚椎から尾骨にかけて鬣が生え、それは水生植物のようにゆらめく。淡い光が鬣の根元から生じ、先端へ向けて移動し、宙へ逃げる。壁や天井は光を捕らえ、それを吸収して粘液菌糸の層を肥厚させる。壁の表層では処々泡がはじけ、甘い臭いが漏れ出る。腐りゆく果実の内に閉じこめられたような部屋だ。酔いを覚え、僕は跪き、苗床にもたれる。Mがコポリと息を吐く。もうお喋りしてはくれないのだ、この口は。 


☆☆☆
絹の着物地張り表紙の手製本に楽しい嘘が12作品詰まっています。ぜひ D02 灰青 凪野さんのブースにお立ち寄りください。