アンソロジー『北陸マンダラ』の紹介 ~短歌の連作3作品について

週末に大阪で通称「あまぶん」という文学イベントが開催されます。参加したアンソロが頒布されるのでその紹介を。
このアンソロは初売りが春の金沢文フリでした。大都市圏の文学イベントでの頒布は今回が初めてになります。
話題になってから結構時間がたっていますが、通販もまだでしたので頒布はむしろこれからという本です。

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詳細は → 尼崎文学だらけ 公式 北陸マンダラの紹介ページ http://necotoco.com/nyanc/amabun/guide/bookview.php?bookid=172


作品数が多いので詳しくは上記サイトで見てください。今日ここでは短歌の三作品への感想を書きます。


三者ともに北陸がテーマですが切り取り方の微妙な違いを味わうのも短歌をしている人には面白いのではと思います。では掲載順に各々一首ずつわたしが好きなものをとりあげていきます。


大和町の赤レンガ屋根が見えたならロードムービー始まる車窓

         『ロードムービー』石川県    佐藤ゆうこ

 金沢の駅から線路を福井方面へ南下していくとすぐに右手に見える風景を詠んでいる歌のようです。佐藤さんと稲泉さんは歌の中にご自分のゆかりの地を代表するような風景や地名を詠み込むやり方をされているんですが、その選択において佐藤さんのほうはぐっと地域を絞って地元の人ならではの選び方をされていました。ポピュラーではないものに陽を当てるということは地方アンソロジーというジャンルでは意義のある事だなと思いながら拝読しました。

この一首を選んだのは、自分が幼いころ山陰の田舎の駅舎から特急に乗り込んで関西へと戻るときのあの気持ちを彷彿とさせられたからです。美しい田舎を離れて、また日常生活が始まるのだという切なさと諦念を電車の揺れのなかで飲み込んでいった記憶。



・村という把握の仕方知らぬ児の朝に漂わないで、雪雲

         『金色の雪』石川県       酒井真帆

北陸色の強い単語を控えめにして、でも「これはたしかに北陸の日常だ」と思わされる歌群です。とくにこの一首には裏日本の湿った雪の重さが感じられ、自分の両親が山陰の出身で、その暗さや重さを小さいころから語り聞かされてきたこと、その経験でさえ重かったことを思い出しました。地方をテーマにするとき、そこを代表するようなものを詠みこむことが多いですが、表と裏でいえば表側の美しい景観だったり珍しい事物だったりになりがちです。酒井さんはこの作品でその土地の日常を衒いなく切々と綴っています。このスタンスは自分が短歌に向かう時のスタンスと近いものがあり、たいへん共感しました。



・ひたすらに沖に近づく愛しさのルシフェラーゼは遠い日のまま

         『蜃気楼(ミラージュ)』富山県      稲泉真紀


最初の一首にスケールの大きな映像的な作品を置いて、全体の印象を端的に伝えていると思います。ここでは誰でも聞き覚えのある富山のあれこれが華やかに力強く謳われています。ああ、これも富山だったの!といくつかは思いながら拝読しました。一首選べば冒頭の一首になるかなと思いますが、たぶんそれは誰もがいいとおっしゃるタイプのものだからあえて別のを選んでみました。ホタルイカ富山湾に産卵に来るのだと、今回ぐぐって知りました。ルシフィラーゼという堕天使みたいな名詞の意味も。
光の群れを暗闇で見るととても濃く見えて美しくそこに近づこうとするのだけれども、いくら近づいてもさっき見えたほどの光には近づけない。知らぬ間にどんどん沖へと出てしまう。
発光体の青の記憶がいつまでも色あせずにいる、忘れたいような忘れたくないような。
幻想的な恋愛の歌で好きです。


尼崎文学だらけについてはぐぐってくださいね。阪神の尼崎駅から近いので大阪近辺の方はぜひおいでください。なにやら面白そうな企画もあるみたいですよ☆